研 究

研究内容の一部をご紹介します。

細胞間結合チャネル

画像:細胞間結合チャネル

多細胞生物の多くは個体を形成する隣接細胞同士が結合構造で結ばれ、そこではシグナルのやり取りが行われています。この細胞間連絡を担う主要なコンポーネントの一つにギャップ結合という構造体があります。この実体は隣接する2つの細胞の細胞膜を貫通するギャップ結合チャネルが集積したもので、隣接細胞の細胞質を直接連絡することによって電気的、化学的なカップリングを実現しています。当研究室ではギャップ結合チャネルの生体内における多様な役割を構造研究に基づいて理解することを目指しています。クライオ電子顕微鏡を用いた高分解能構造解析と、機能解析や計算機科学を組み合わせて、ギャップ結合チャネルの開閉機構の解明に取り組んでいます。

Large Pore Channel

画像:LargePoreChannel

細胞膜に存在する膜タンパク質チャネルには、特定のイオンを選択的に通す径の小さい通路を持つもののほかに、ヌクレオチド、アミノ酸、ペプチドなどを通す径の大きな通路を持つものがあり、後者はLarge pore channelと呼ばれています。パネキシンと呼ばれる膜タンパク質はLarge pore channelの一つで、生体における炎症反応やてんかんといった症状に関係することが知られており、このチャネルを介したATPの放出が示唆されています。当研究室では脂質に存在するLarge Pore Channelの開閉機構の解明を目指した高分解能構造研究に取り組んでいます。また構造研究だけでなく、チャネルの開閉制御を検証するための機能解析やMDシミュレーションの共同研究も行っています。

生物の形態形成におけるギャップ結合の役割

画像:LargePoreChannel

生物の形態には、等間隔性を持った繰り返し構造、すなわち「パターン」がしばしば見られます。こうした繰り返し構造は、体の形状や骨格の形成において基本的な要素であると考えられています。しかし、安定したパターンがどのようなメカニズムで形成されるのか、またその構成要素の大きさや空間的配置がどのように決定されるのかについては、多くの謎が残されています。ゼブラフィッシュの色素パターン(縞模様)や脊椎の形態に着目したこれまでの研究から、「ギャップ結合」として知られる細胞間結合チャネルが、こうした繰り返し構造の形成や維持、さらにはそのサイズの決定において極めて重要な役割を果たしていることが明らかになってきました。現在、ギャップ結合を介した細胞間相互作用や電気的シグナルがパターン形成や形態形成において果たす役割の解明を目指し、ゼブラフィッシュの遺伝子組換え体の解析、in vitroライブイメージング、電気生理学的解析などの手法を用いて研究を進めています。また、形態異常を示すチャネル変異体を解析することで、ヒト遺伝病の理解にもつながる知見を得ることを目指しています。

膜電位感受性ナトリウムチャネル

画像:膜電位感受性ナトリウムチャネル

膜電位感受性ナトリウムチャネルは神経細胞の軸索上で活動電位の発生を担うイオンチャネルです。当研究室ではこのチャネルのナトリウムイオン選択性と活性制御の分子メカニズムの解明を目指し、結晶構造解析と電気生理学的手法を用いて研究を進めています。

クライオ電子顕微鏡の試料調製の技術開発

画像:nanodisc

クライオ電子顕微鏡単粒子解析法を用いて高分解能構造解析を目指す場合、試料調製は特に重要な要素です。タンパク質粒子を変性させることなく薄いアモルファスな氷に閉じ込め、かつ多様な方向を粒子が向いている必要があります。当研究室では膜タンパク質を対象とするときに含まれる界面活性剤をできるだけ除去すると同時に膜タンパク質を未変性の状態に保つための技術開発を行っています。中でも膜タンパク質を脂質に埋めて構造解析するためのナノディスク再構成法は最近複数の膜タンパク質において高分解能構造解析に成功しており、生体膜環境を意識した技術開発に力を入れています。

Gタンパク質共役型受容体

画像:Gタンパク質共役型受容体

Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は、光やにおい、ホルモン、神経伝達物質などの外界からの刺激を、細胞内側に伝達する膜タンパク質です。その生理機能は多岐に渡り、人の疾患にも深く関係しています。我々は機能的にも面白く、創薬標的としても重要なGPCRの構造と機能の研究を行っています。これまでに、痒みや痛みに関与すると報告されているMrgD受容体とGタンパク質複合体の構造解析に成功し、リガンドとの相互作用やリガンド非存在下において、MrgDがリガンド依存的、恒常的に活性化されるメカニズムを解明しました。